「運用でカバー」する公共システム
こんにちは。フィックスポイントの冨です。
最近驚いたニュースの一つに、ワクチン接種記録システム(VRS)の読み取り問題があります。政府配布のタブレット端末を使ってワクチン接種券を読む際に「接種券のバーコードが読みとれない」「ピントが合わない」など自治体から苦情があった件。5/11に平井デジタル相が記者会見で「18桁の数字を読み取るにあたりバーコードではなくOCRラインを読み取る仕様」であったと説明されました。バーコードと数字が上下に併記されていれば、バーコードを読み取ろうとするでしょうが、自治体によっては数字だけの表記なので、そちらをOCRで読み取る仕様であったわけです。
この仕様に至るまでの経緯を、政府CIO補佐官の楠さんがTwitterで説明されていることによりますと、「最初はバーコードを読むつもりだったのですが、(接種券の)仕様がカッチリ決められておらず、自治体によってバーコードがあったりなかったり、埋め込まれている値もバラバラなので、仕方なく全団体共通のOCRラインを読むようにしたのです。」という事でした。
https://twitter.com/masanork/status/1393335569032237056
要は接種券の仕様を決める際に、現場のオペレーションを考慮せず、自治体の裁量に任せることにした結果のようです。要件定義の失敗の例ですね。バーコードをつけると見積もり価格が上がるなどからと表示を見送った自治体もあったということでしょう。
結果として識別精度に劣るOCRを採用せざるを得なかったという事で、かえって全体としてはコストが上がってしまったという結果に陥ってしまいました。
いわゆる上流工程で実際にどのように業務やシステムが運用されるかを想定せずにシステムが作られ、使われ始めた後の事は「運用でカバー」という業界の悪癖に長年、システム運用の担当は苦しめられてきました。コロナ禍においての公共システムでは、多くの「運用でカバー」が可視化されてきました。
担当者目線では、いろいろな経緯でやむを得ないといった妥協・打算の積み重ねになろうかと思いますが、ITシステムの出来・不出来が対応施策のスピード感に直結し、個人・企業の死活問題を左右しかねないという事を目の当たりにした1年間でした。
話題になっているDXの本質も、この辺にあるのでしょう。イケてないITシステムを使い続けるということは、急激な環境変化に対応出来ず、競争力を失いかねないという教訓を突きつけているといえましょう。