株式会社GA technologiesの稲本と申します。
本日は不動産仕入れプロセスにおけるDXの推進ということで、お話いたします。
まずはじめに自己紹介させていただいて、そのあと弊社GAテクノロジーズの紹介、それから私の所属するAI Strategy Centerの紹介を致します。
そのあとに本題である、不動産仕入れプロセスにおけるDX推進事業の紹介をさせて頂きます。
まずは私の自己紹介です。
所属が株式会社GA technologies、こちらで執行役員CAIO(Chief Al Officer)という職務を担当しております。
また私が所属する組織として、AI Strategy Center、こちらの責任者をやらせていただいております。
略歴ですが、2002年に大学院を卒業してすぐに株式会社リコーに入社し、10年以上画像処理や画像認識の開発研究に従事しておりました。
そのあと新規事業の企画者に転身して、Saas型のWebサービスTHETA 360.bizの立ち上げなどに関わりました。
その後2017年より株式会社GA technologiesに参画しました。
2019年からは弊社の執行役員を担当しております。
続きまして、GAテクノロジーズの紹介をさせていただきます。
設立が2013年の3月という比較的若い会社になります。
所在地が東京をはじめとした日本各地と、上海に支社があります。
資本金72億円で、直近の売上高は約630億円です。
従業員が大体577人で、アルバイトなどを合わせると700人くらいになります。
グループとしてはいくつかの会社を抱えています。
それから経済産業省が認定する「DX銘柄2020」に認定されております。
我々はマザーズに上場していますが、マザーズ上場企業としては唯一、不動産業者としましては我々と三菱地所様だけという、非常に映えある認定を受けております。
テクノロジーとイノベーションで、人々に感動を与えたいと思っておりますし、あとは世界のトップ企業を創りたいと思って、日々ビジネスをしている会社です。
GAテクノロジーズグループがどういった事業をしているかと申しますと、不動産の全領域において、賃貸、売買、リノベーション、投資という全領域を網羅しつつ、全ての不動産会社へSaasのプロダクトを提供しております。
この下の方に書いてある図が、その各領域におけるサービスになります。
サービスラインナップは、借りる、買う・売る、投資する、それぞれにおいて、仲介のビジネスをやっていたり、リノベーションをやっていたりと、不動産業界で網羅的にビジネスを展開しています。
GAテクノロジーズの戦略は、不動産業界にテクノロジーを入れて、どんどん強くなっているというフェーズです。
そして少しずつ海外へ展開を始めておりまして、そちらが行きわたった後は、隣接領域、同じようにアナログな業界にデジタルを入れて変えていく、建設や金融、保険といったところに進出していこうと考えています。
AI Strategy Centerとは
続きまして、私の所属するAI Strategy Centerのお話をさせてください。
AI Strategy Centerとは一言で申しますと、研究開発の部門になります。
ミッションは、「先進技術により事業に貢献する組織」です。
ここに集まっているメンバーは私を含めてメーカー系の研究者が何人かいたり、大学の先生がいたり、理化学研究所出身のメンバーがいたりします。
あとは変わったところで言うと、データサイエンティスト協会で事務局長だった人間がいたりと、面白いメンバーが集まっているチームです。
ここに優秀な若手たちが集まって、日々研究開発をしています。
AI Strategy Centerの担当業務
先ほど我々の担当業務としまして、研究開発をしていると言いました。
主な研究領域として、画像認識だったり、自然言語処理だったり、音声認識、データ解析、マッチングがあり、研究だけではなく、きちんと事業に貢献するためにツールとかアプリケーションの形にして提供します。
またデータを取得して解析することによって、経営判断のサポートをしたり、ブランド強化のために学会で発表したり、論文を発表したり、特許を出願したりと、こういったことも我々の担当業務になっております。
事例:AIを用いた投資用物件仕入れの効率化
ここからが本題になります。
今日は、AIを用いた投資用物件仕入れの効率化についてご紹介したいと思います。
弊社は仕入れのための自社システムを作っておりまして、それが「SUPPLIER by RENOSY」というツールです。
ベテランの勘をAIで処理し、不動産仕入れを効率化するというプロダクトです。
こちらは開発部門と、我々AI部門が一緒になって作っているものです。
投資用物件仕入れプロセスにDXを浸透させた結果
この「SUPPLIER by RENOSY」を使って投資用物件の仕入れプロセスにDXを浸透させた結果、物件仕入れ業務の工数が従来比の1/3になりました。
これは日々改善しているもので、ある時のスナップショットに過ぎませんが、昔に比べると従来比1/3することができました。
当社におけるDX浸透のプロセス
このプロセスをどのようにして実現していったかというと、まず現場観察をして、企画立案をして、AIやRPA、普通のエンジニアリングといった問題解決をして、それを浸透していくというプロセスを踏んでいきました。しかしこんなに綺麗にいったわけではなく、実際には浸透までいっては問題解決に戻り、浸透までいっては企画立案に戻り、浸透までいっては現場観察に戻り、と七転八倒、紆余曲折を経て、DXを浸透させたという実例を、今日はお話ししたいと思います。
第一章:AIによる販売図面の自動読み取り
まず大前提として、多くの不動産情報は未だこの令和の時代になっても画像として流通しています。
テキストデータになっていない、こういう現状をまず前提としてご理解ください。
この前提において、現場ではどういうことが起きていたかをお話をします。
まず弊社には、この物件を買いませんかという大量の販売図面がやってきます。
ボリュームにすると、月に大体数千件です。
担当者はこの販売図面を目視でチェックしていました。
もちろんこの数千件の図面を、担当者が一件一件データベースに登録するということは現実的ではありません。
そのため、仕入れる物件に関してはデータベースに登録しますが、仕入れなかった物件はデータが蓄積されないという課題がありました。
そこで我々がAIの部門として、AIによる販売図面の自動読み取りを試みました。
AI開発の上でやっかいなこと
ただ、AI開発の上で厄介なことが一つあります。
この販売図面ですが、14万社といわれる日本の不動産会社、その一社一社が思い思いにさまざまなフォーマットでこの販売図面を作るのです。
そのため、例えば物件名はこの決まったフォーマットのここを読んだらいいよという単純な話ではなく、物件名をAIに探させるような、そういったプロセスが必要になってきます。
システムに販売図面を読み込ませる流れは、まずファイルが選ばれて、システムに登録されます。
次に物件名や住所、駅、業者情報といった文字情報が自動で入力されます。
また文字情報だけではなくて、画像の情報も読み取れます。物件の写真だったり、間取り図などがきちんと分離されて、データベースに登録されます。
我々AIの部門でデモを開発して代表に見せたところ、すぐに「これはいい」と。今すぐ仕入れのシステムに導入して下さいと言われました。
本当にトップダウンで導入が決まったんです。
我々としては喜び勇んで、一生懸命開発して、システムに導入しました。
現場の反応
しかし、導入したあとに現場はどう反応したかというと、「この機能消してください」と言われたのです。
何故このようなことが起きたのか、説明させていただきます。
この画像認識によって販売図面を読み取るという機能ですが、精度が100%ではありません。
この当時の精度が、だいたい80%でした。
例えば15項目あった場合、80%なので3つは間違えてしまう、という形になります。
仕入れ担当者からすると、100%読み取れていると思ってそのあとの処理をするのですが、後段の処理をする担当者から怒られてしまうのです。
ここ間違えてるよとか、抜けてるよ、と怒られてしまうと。
こういった手戻りが起きて怒られるということを考えると、こんな中途半端な機能は消してくださいというのが現場の反応でした。
対策
それに対して我々が立ち戻って何をしたかのかというと、もちろんAI改善をしました。
それで精度は80%から90%まで伸ばすことができました。
でも15項目あったら、やはり1つとか1.5個間違えてしまうのです。
「まだ足りないよ」というのが現場の意見でした。
ではこれに対してどうするかというと、AIが出力した結果を部署内で人力確認して90%だったものを、ほぼ100%にして現場に渡すということをしました。
これによって苦情はなくなりました。
ただ、不動産業界というのは土日がメインで働く業界ですから、基本的に休みがありません。販売図面は365日とは言いませんが、ほぼ毎日やってきます。
これを我々の部署が全て目視でチェックして、入力、修正するという作業をやっていました。
これは非常に負荷が高い作業なので、クラウドソーシングを活用して、外部に出すことによって部署内の作業者の負担を削減しつつ、現場から苦情がなくなるというような改善をしました。
これを経て、やっと販売図面の自動読み取り機能がなんとか現場に浸透することができました。
第二章:AIによる賃貸推定
続きまして、第二章です。
AIによる賃貸推定の話をさせていただきたいと思います。
我々が扱っている投資用物件というのは、我々が一旦購入して、お客様に売ります。
お客様はその物件を賃貸に出すことによって、収入を得るというのが投資用の不動産の物件です。この投資用物件を我々が買うときに、その物件は実際にどの程度の賃料で貸せるのかということが非常に重要になります。
これが本当に1万円でもずれてしまうと、その物件を買ったお客様が運用するときに、利回りに大きな差が出てしまうことになります。
AIを入れるまでは、何人かいる仕入れ担当者がそれぞれに賃料を査定しているという現状がありました。
この査定の個人差が激しいという問題が現場でおきていましたので、AIによる査定の補助を試みました。
我々は物件情報を自社でも持っていますし、他社から購入もしています。
どの物件がどの賃料で出せたのかというデータを大量に収集しておりますので、それを機械学習にかけることによって、先程の販売図面の読み取りによって読み取れた情報が入ってきたら、自動でこの物件はいくらで貸せるというのが出せるようなAIを開発しました。
つまり、先程の販売図面読み取りと繋げると、図面が入った時点でこの物件はいくらで貸せるよというのが一発で出てくる、そういうシステムになっています。
現場の反応
これを現場に導入しました。
早速仕入れ担当者から、「すごく楽になった」という非常にいい反応がありましたが、全員がこれに対していい反応を示したかというと、そうではありませんでした。
実際に買うまではいいのですが、お客様に販売してその後に賃貸管理する、実際に家賃を付ける人たちがいるのですが、この人たちから苦情が来ました。
「この家賃では貸せない。」
つまり、あまり精度が良くなかったのです。
対策
これに対して、また浸透から企画立案とか問題解決に立ち戻って、まずはAI改善、精度を向上しました。
誤差が大体平均で5,000円位でしたが、それを3,000円まで減らすことができました。
しかし、それでもまだ足りないよ、というのが現場の判断でした。
そこで、AIが査定するに至った際のバックデータの可視化をしました。
そういったものを全て提示すると、AIがいくらで貸せると言った、その背景にはこういうデータがあるというものを現場の担当者に見せることによって、担当者の判断を支援するツールという形に、ちょっと方向性を変えました。
バックデータの可視化
例えば家賃のヒートマップを出していますが、青いところが比較的家賃の安いところで、赤いところが家賃の高いところです。 物件データが入ってきたら、いきなりこれが表示されます。駅徒歩0分から5分以内、広さ、築年などをある程度統制した状況において、この地域だったらどれくらいの家賃が適正かというのを、ヒートマップでも統計で取ったデータでも見せするシステムを現場に提供することにしました。
さらに、似たような条件の物件だけをプロットして、左側に家賃、右側に築年数を置いてどのような分布をしているのかというのを見せて、これ参考に判断してくれと言って現場に持って行ったのですが、見せただけでは実は不十分でした。 この図を見ると、築年数が12、3年の上の方に、20万円の家賃がついているところがあります。
これは我々みたいにある程度データ解析をやっている人間からすると、「外れ値」と考えてしまうのですが、現場の担当者からしたら、20万で貸せた実績があるということは、この物件は20万と言わなくても、18万とか16万で貸せるのではないかと言うのです。
この分布を見ると、12年くらいだとおそらく10万円くらいが適正だと思うのですが、14万とか15万をつけてしまう担当者もいるということです。
ですので、これはそういうふうに見てはいけないよ、といった教育を現場にして行くことも含めて、初めて現場に浸透することができました。
これが第二章、AIによる賃料査定のお話しでした。
第三章:エクセルとの戦い
最後に、エクセルとの戦いの話に少し触れておきたいと思います。
先程のSUPPLIER by RENOSYですが、仕入れ担当者は業務の全フローで、このSUPPLIER by RENOSYを使って業務を進めていると考えて、我々はずっと開発をしていったし、機能も拡充していました。
現場で起きていたこと
ですが、あるとき仕入れ担当者に言われてしまったのです。
このSUPPLIER by RENOSYのここに関しては、実は使ってなくて、スプレッドシート、エクセルを使っているんですよと。
それをきちんと見ていくと、特にその仕入れ担当者が他部門と連携する業務、例えば契約書を作成するだとか、書類を集めるだとか、そういった業務においてはやはりシステムでやるよりはスプレッドシートとかエクセルのほうが情報共有が簡単なので使いやすいと、勝手にエクセルが作られていたんです。
こういったエクセルが大量にあるとどういうことが起こるかというと、このエクセルとシステム間で情報を転記する必要が出てきます。
転記する手間も非常に大変ですが、転記するときにどうしてもエラーが発生します。
人間は間違えるものですので、エラーが発生する。
こういった問題が起きていました。
そこで我々は、現場で利用されているエクセルを洗い出して、要件定義して、システムへ実装ということをやりました。
しかしこれは一回で終わることではなく、どんどんもぐら叩きのように潰しても、潰すたびに新しいエクセルが出てくるんです。
これを一個ずつ根気よく潰すことによって、エクセルを無くしてシステムで全ての業務が完結するという形を達成することができました。
このようにして、投資用物件仕入れプロセスに根気強くDXを浸透させた結果、弊社における物件仕入れ業務の工数は従来比1/3にすることができました。
DXについてまとめると、我々が下手くそだっただけというところももちろんあると思いますが、おそらく一般的にDXを現場に浸透させていくプロセスは一本道にいかなくて、先程のように何回も手戻りをしながら、現場の意見を尊重しつつ、根気強く問題を発見して、解決し続けることが大事なのだと思っております。
第四章:後日談
実は後日談があります。
先程、販売図面の自動読み取りに関しては最終的にはクラウドソーシングで100%にしてますよという話をさせていただいたと思います。
ただ、このDXのプロジェクトが終わったあと、1年後ぐらいにクラウドソーシングの業務について、もうちょっと効率化したりだとか、発注範囲を狭くすることができないかなということで、もう一回現場にヒアリングしたんです。
クラウドソーシングの利用状況どうですかと聞いたら、クラウドソーシングいらないですよと言われたのです。
なぜいらないのですかと聞いたら、もうこの自動で読み取る仕組がないと業務が回らないので、読み取り結果が間違えてたら仕入れ担当者が自分で直してるんです、と言ってもらいました。
こうやって無事クラウドソーシングの利用を卒業できたのですが、やっとここでDXが完全に浸透したのかなと実感したエピソードでした。
浸透させるのは本当に大変でしたが、現場を巻き込んでいければDXはどんどん進んでいくのではないかと思っております。
ご静聴ありがとうございました。