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過去の成功体験が足かせになる。
DXを失敗に陥れる業務のありかた

株式会社リビカル代表取締役
業務コンサルタント
元山文菜氏

 株式会社リビカル、代表取締役をしております、元山と申します。
本日私からは「DXを失敗に陥れる業務のありかた」ということについてお話しさせていただきたいと思います。宜しくお願いいたします。
まず、お話しさせていただく前に弊社の説明をいたします。
株式会社リビカルの由来は、”Re-engineering Business Culture”の略でして、ビジネスを再構築することで、誰もが働ける社会を目指しております。

  基本的には業務コンサルの会社になります。
企業に変革を起こすための必要なアプローチは、仕組み改革と意識改革と捉えています。
仕組み改革としては、BPRコンサルティングにて、業務を可視化してボトルネックを見つけます。そこを改善して最適なソリューションだとか、最適なプロセスを作っていくということをメインにしています。
そのBPRする中で、必要な場合には業務系のシステムの導入支援や、弊社はWinActor(RPAツール)を担いでいますけれども、RPAの導入支援のようなこともしております一方で、仕組みが変わっても意識が変わらなければ組織というのは変わらないということで、意識改革のための講演やセミナーなども実施しています。

私自身は、卒業後にサクラクレパスという文具メーカーに入社して、そのあと商品企画部でプロダクトマネージャーをしていました。
2008年に富士通に転職して、特に営業管理業務のプロセスアウトソーシング、営業の顧客対応時間を伸ばすために業務を整理してアウトソーシングさせたり、そもそものプロセス自体を変化させるようなことをやっていました。
9年半勤めたのち、2017年2月に独立起業してリビカルを立ち上げました。

主にやっていることは先ほども紹介した通り、バックオフィス業務全般に対する業務コンサルとして、BPR活動とかBPO、RPAの導入支援などをやっております。
企業目標を明確にして、各業務を属性別に分析して、適切な業務設計や組織構造を構築することによって、利益体質の組織を作っていこうというようなことをやっております。
そんな私が本日お話しさせていただくのが、「DXを失敗に陥れる業務のありかた」です。

そもそも日本のデジタル技術の活用が遅れているのは、ここ今年とかではなく数年前からずっと耳にしている言葉だと思っています。
よくネットで出てくる、スイスのビジネススクールのIMDがまとめている世界のデジタル競争ランキングなどでも、最近の7年間ぐらい日本はずっと20位以下と低迷している状態です。
確か昨年は27位くらいだったと思いますが、このように、日本はデジタル技術の活用がすごく遅れているよと聞いてはいても、なかなか日本の中だけでは、そう感じることはなかったかもしれません。
しかし、実際私たちが身近にそれを感じたのは、やはり昨年の新型コロナ感染症のタイミングかなと思っています。
これによって、世界と日本の差をまざまざと実感したのではないでしょうか。
2020年の3月末に、世界の99カ国の企業にアンケートをとったところ、全体の9割近くがデジタル技術を活用したテレワークを推進していると答えていました。
一方、日本でとったアンケートになると、実は3割にも満たなかったということがはっきりしました。
確かに私の周りの外資系の友人やお客様などは、コロナ禍になっても新しい働き方にうまくシフトしているイメージがあります。
一方、「ハンコを押さないと業務が進まない」とか、「FAXを取りに行かないといけないので無理なんです」とか、「営業活動をオンラインでやりたいけどそんなツール考えたこともなかった。どうしたらいいんですか?」みたいな話を、日本企業では耳にする機会が多かったと思います。 ですので、日本のデジタル技術の活用が遅れているというのは、世界的に見ても言われていることですし、実体験としてもなんとなく私たちも感じ始めた状態です。

ただし、デジタル技術では世界と比較して大きく劣っているのかというと、私はそんなことはないはずだと考えています。

日本企業は全体的に見ても、AIやIoT、ビッグデータなど先端技術に関する投資をかなり以前から熱心に進めてきていました。
DXの推進に欠かせないデジタル技術だけを見ると、世界と比較して大きく劣っているとはやはり思えません。
むしろ、素地は整っているという印象を私自身は持っています。
ただし、その技術を活用して、ビジネスとして何か事業成果が上げられているのか、成果につなげられているのかというと、やはりそこには疑問が残るわけです。

素地が整っているし、いろいろな企業の方とお話ししても、変革の重要性のようなものは皆さんすごく理解されている印象を持っています。
それにもかかわらず、なぜ「成果が出ないのか」、「事業として何かしらインパクトが残せないでいるのか」という、その原因は一体何なのかということについて、業務のありかたという視点でお話しさせて頂きます。
それらを考える前にまず、日本企業がここまできた発展の歴史を、高度経済成長期からバブル期までを、一度みなさんと一緒に見てみたいと思います。

DX化を阻害する成功体験

 日本の企業というのは、戦後焼け野原といわれていた状態から高度成長を遂げ、1995年には世界トップレベルにまでのしあがりました。 1989年には世界の時価総額ランキングトップ50のうち、32社が日本の企業だったと、これはすごいことだと思います。

そのまま成長を遂げた日本は、国内総生産が米国に迫って世界2位でした。
一人あたりのGDPで見ると、米国を抜いて世界1位にまでのし上がったという歴史があります。
この期間の日本は大変な成長速度で伸びていたのですが、なぜこんなふうに成長を遂げたのでしょうか?
ということで、高度成長期時代の日本の企業のありかたを見ていきたいと思います。

高度成長期時代の組織風土

 この時代のビジネスの中心は、製造業でした。
みなさんご存知の通り、大量に生産して大量に消費する時代だったわけです。
この時代の成功パターンの働き方、組織風土というのは、なるべく男性が働く。
どうしても重工業の比率が高いため、筋肉が多い方だとか、ある程度無理ができる方が適している業務が多かったために、このようになっていました。

そしてこの時代、早く安く大量に商品を作ったほうが勝てる時代だったので、時間×成果でなるべく長時間働くことが良しとされていました。
同じ業務をずっと長期間にわたって担当することによって、業務自体の品質を上げられたり、そもそものスピードアップが図られるので、熟練度をあげて職人を育てるみたいな風土だったわけです。

職人というのはある意味属人化させるという意味ですが、皆がそれぞれの個性でものを作ってしまって、品質にばらつきが出てきてはいけないので、ある程度同一化させて一体感を持たせるということが大事にされていました。
お手本通りに一生懸命努力するという、そういう人材を育てている時代でもありました。

どうしても製造業が中心になりますので、現場主体による組織のありかたという形で、全体の中でこの業務、この業務、この業務といったように、個別化された縦割りの組織設計になっていました。
そして、たくさんの商品を均一的に作る必要があるので、ミスというのはやはり許されない、ちょっとしたことが命とりになる徹底主義でした。 ですので、どちらかというと減点主義による人事評価制度でした。「失敗しないことが絶対だ」、と。
「前任者と同じようにやることが仕事ができることだ、大事なんだ」 という組織風土がありました。
均一的なものをたくさん作って、それらを提供することで市場ニーズを満たすということが成長戦略だったので、なるべく同じ条件の人を揃えるというような組織風土が、この時代に作られたということです。
誤解してほしくないのが、この時代はこのやり方が正しかった、そのおかげで日本はこれだけ成長できたということです。

業務のあり方が変わってきた

 ただし、ビジネスが製造業から大きく変わっていくことによってビジネスモデルが変化し、ビジネスモデルが変化するということは、業務のありかたも変化していきます。
従来業務というのは、言われた通りに遂行することでしたし、そういうふうに捉えられていました。
それがトヨタに代表される「カイゼン」が製造現場に導入され、業務というのは言われたことをただやるのではなくて、カイゼンさせて良くしていくことが必要とされるようになりました。
そこで、業務というものは遂行させ、改善するものになりました。

そしてその後PCが導入されると、オフィスワークの仕事が一気に増えていきます。
さらにICTが発展し、ビジネス自体も大量生産、大量消費の時代から個の時代に変化していったわけです。
そうすると業務は、そもそも改善させて、そして新しく作っていくものに変化してきているのです。
この遂行、ただ言われたことを言われた通りにやるというのは、実は今はRPAなどがそうなのですが、ロボットのものになろうとしています。
実際言われたことを正確にやるというのは、ロボットの方が人間よりも得意な部分でもあったりするのです。

成功体験による慣習!?悪習!?

  ですので、いくらデジタル技術が進化していても、過去の成功体験に縛られたようなルールや組織、制度や業務プロセスみたいなことが変わらないと、ビジネスとしての成果、事業としての成果はなかなか出てこないわけです。
今まで成功していた成功法則、成功体験がいつの間にか自分たちの足を引っ張ってしまっているという状態になっています。

具体的にどういうことが挙げられるかというと、例えば長くて決まらない会議、会議の前の会議とか、何をするのか事前に全く知らされていない、とにかく集まっているみたいな、そういう会議だらけの職場だとか、どうしても紙と押印文化が無くならない職場などです。

縦割り組織による業務、お客様に届ける価値は同じなのに、やっていることに組織によってこだわりが出てきてしまうような、やり方が違ってしまうみたいなことがあったりするところにデジタル技術をのせてデジタル化させようとしていても、なかなか定着しません。

それからとにかく承認が多い業務プロセス、なぜこの承認やっているのかと聞いても、お客様の中では答えられない方達も意外と多いのです。 誰が具体的にどこをチェックするのかといったことは無くて、とりあえずめくら判で押していたり、ひどい時には部下や事務の方がその承認者の印鑑の場所を知っていて、引き出しから出して押すみたいなことが起こっていたりもします。

とにかく承認が多い業務プロセスだとか、あとは「おもてなし」というととても聞こえはいいですが、過剰すぎるサービスのようなものも起こっているのかなと思います。
それから不明瞭な業務内容と人事評価と書かせていただきましたが、多くの日本企業は人に仕事をつけているような状態で、タスクが何かが明確になっていません。

ですので、その人がどのようなタスクをいつまでにやって、どのような品質を評価すべきなのかといったことを、管理職が分かっていなかったりするのです。
今まで同じような職場で働いている時には、隣を見ればなんとなくわかったけれども、テレワークで目の見えない場所で働いていると、サボっているのか頑張っているのかわからないので、異様にレスポンスの早い部下を評価してしまったり、夜も寝ずに頑張りますみたいに言っている人が仕事ができるんじゃないかということになってしまったりするわけです。

それから完璧主義と安全志向でなかなか前に踏み出せないみたいなことも起こっています。
全体の中の一部を抜き出していますけれども、このように過去の成功体験のもとにあたりまえになっている慣習、もしくは悪習のようになっているプロセスや規則、ルールみたいなものは、この変革をしないでデジタル技術をのせても、事業とかビジネスとしては成果が現れないのです。

ソリューションありきのDX

 もう一つ大きくあるのが、ソリューションありきのDX化です。
今は「DX」という言葉がすごく流行りというか、すごく言われるようになりましたが、その一つ前だと例えば「働き方改革」みたいな言葉が流行っていました。

その度に、みなさんデジタル技術を入れる方がいいと、何かしらのテクノロジーを入れようという話になるのですが、まず先にそれが来てしまうのです。
ソリューションありきで何かを変えていこうといったように、手段と目的が逆になるパターンですね。
これにおける失敗プロセスの話をさせていただきたいと思います。

ソリューションありきの失敗プロセス

  このソリューションありきで失敗する原因となりうるところですが、まず一つ目が散らかった業務から目を背けてしまうということが要因の一つとなっています。

これはどういうことかというと、基本的にオフィスワークというのは、工場などと違って目には見えません。

   ですので、どのように管理してどのように仕事を進めるかというのはあくまでも個人の判断になっています。
個人が思い思いのまま仕事をしているものがあると、いろいろとごちゃまぜになってブラックボックス化されている状態になります。 そのために、ちょっと手をつけずらい状態になっていることも多くあります。
それで、ソリューションを導入したらなんとか解決するだろうと、思いの丈で突っ走ってしまう。
もちろん現場の業務をきちんと可視化したわけでもないですし、本当に自分の組織に合うものが何かということを検討することもないので、成果が出ないわけです。
一番最悪なパターンが、成果は出ていないんだけれども、何かしらのデジタル技術を入れたからDX化できたよね、ということになってしまうパターンです。

運用(定着)のステップが頭にこない

  もう一つのパターンが、これもよくあると思いますが、何かしらのデジタル技術を活用していこうとなったときに、だいたい皆さんイメージするのはシステムを開発するとか、その開発したものを導入する、ということです。
そのあと運用させて定着させるというポイントが、なぜか無視されがちなのです。

ITベンダーの方と話していても、効果の話は結構してくれるんですけども、運用させて定着させなきゃいけないよという話って、なかなか聞けなかったりします。
理由は何かと言うと、「定着」いうのは導入後に自分たちでやらなければいけないことだからなのです。
そして、技術を実際に活用して成果を出すというところが一番難しいステップにもなっています。
この定着とか運用というところを無視したままでは 、やはり成果も出ないのです。
但し、先ほど言ったように、開発して導入するだけでもすごく大変なことなので、何かしらやった気になる、DX化した気になるという失敗パターンです。

改革と改善で解決

 ここまでお話したように、成功体験に基づく組織の風土や規則、ルール、もちろん業務プロセスもですが、そういうものを抜本的にどう改革していったらいいのか、運用させて定着させるためにはどうしたらいいのということで、少し最後に具体的な手法、どういうやり方をすればいいかということについてお話します。

「改善」と「改革」の違いを知っていますか?

   具体的なやり方を話す前に、まず業務改善とか業務改革みたいなことは結構耳にすると思いますが、「改善」と「改革」というのは基本的に全く違うものです。
何かやろうとした時に、景色が合ってないとすごく揉めたりとか、一方は「改善」の話をしているのに、一方は「改革」の話をしたりしていると、実際のプロジェクトがなかなかうまく進まないですし、なんかモヤっとするな、という状態になります。
景色合わせは本当にすごく大事なので、この「改善」と「改革」ということの定義について、一度おさらいしたいと思います。
まず「改善」ですが、改善というのは基本的に現状を肯定するという前提から始まっています。
現状のビジネスの前提は変えずに、その範疇で仕組みや仕掛けを創意工夫して変えていく。
今あるものをより良くするという感じです。

一方、「改革」は新しく価値を創造していく、逆にいうと現状を肯定するというよりも本当にこれでいいのかと現状を否定していくような思考のプロセスを使います。
その上で自分たちの組織が有する強みをベースにきちんと顧客視点、従業員視点というところで全く新しいビジネスモデル、そしてそれに見合うプロセスを生み出していくというのが「改革」です。
ですので、間違ってはいけないのは、「DX」と言っているのは業務「改革」のことです。

家のリフォームに例えると

 それでは、ここでもう少し景色合わせを大事にしたいので、家のリフォームに例えて業務改善と業務改革についてご説明します。
「業務改善」というのが、日々の生活の中で不便を感じる、ちょっとした壁紙やお風呂の床などを直すということです。
抜本的に何か間取りをそれごと変えるのではなくて、今の間取りを肯定した上で適宜直していくろいうのが業務改善です。

一方、「業務改革」というのはそもそも自分たちにとってどんな暮らしが理想かを考えて、「落ち着ける暮らし」という目標を立てたとして、それを実現させるために間取りや部屋数、お風呂の位置をこっちに変えようみたいな感じで、全てを抜本的に見直して改修するようなことをイメージして下さい。

どのように進めるのか

 実際、DXを進めていくような業務改革のプロジェクトのやり方と、業務改善のプロジェクトのやり方は大きく違います。
考え方も違うのですが、意思決定のプロセスも、業務改革ではトップダウン型で進めます。
逆に、業務改善はボトムアップ型で進めていきます。
スケジュール感も、ある程度一定数の期間があるものと日常業務として継続していくといった違いがあります。
ここでやり方を間違えてしまったり、進め方を間違ってしまうと、これもやはりなかなかうまくいきいません。

トップダウンとボトムアップの両輪を回す

  ではDXを考えた時に、業務改革が必要なのでトップダウン型でどんどん進めていけばいいのかというと、それも間違っています。業務改革でデジタル技術の抜本的な見直しをしても、今度それが実際に現場で業務として動かされていかないと、ビジネスとして、事業としての成果が出ていかないのです。

あくまでもトップダウン型で業務変革を行なっていきますが、それが現場に入ったときには現場からのボトムアップ型で、どんどんPDCAを回して改善していくということが大切です。
これが今の業務のありかた、改善しながら創造していくという組織のありかたです。

業務改革による解決方法

 では、次に先ほど言った業務改革による解決方法、具体的な手法についてご説明します。
そもそもBPRとは何なのかということですが、これはご存知の方も多いと思います。
BPRというのは、1990年の初頭にアメリカがずっと長期不況によって疲弊した企業経営を立て直すために、抜本的な改革の手法として、マサチューセッツ工科大学のマイケル・ハマーと経営コンサルタントのジェームス・チャンピーが提唱した考え方です。

そのマイケル・ハマーの書いた「リエンジニアリング革命」という有名な本の中に書かれているBPRの原点ですが、これは特に古典的なビジネス構造を全面的に否定して、プロセス志向で新たな組織構造・価値観・評価システムをゼロから作り出すこと、そして抜本的な変化を起こすための一連の手順のことを言っています。
ですので、今こそBPRという手法をうまくDXにも活かしていけるんじゃないかということが言われている前提条件というか、背景にあります。

ビジネス・プロセス・リエンジニアリングのキーワード

  ビジネスプロセス、BPRのキーワード、これは4つあります。
根本的、抜本的、劇的、プロセス。
最初からやり直すこと、再出発という意味を示しています。

業務改革(BPR)プロジェクトの進め方

  具体的な進め方ですが、DXを進めるときにもまず一番始めに、コンセプトフレーミングということで、このプロジェクトでなぜテクノロジーを活かすのか、どういうことをやっていきたいのか、そもそも私たちのお客様は誰で、どういう業務を必要としているのか、ビジネスモデルはどうするのかということを一番最初に決めます。

それのもと、現状を整理していって、いる業務、いらない業務を交通整理や分解しながらボトルネックを見つけて、最適なプロセスを作っていきます。
必要であれば、そこに合うテクノロジーをのせていきます。
一番最後に書いてある通り、大事なことは新しいプロセス、新しい業務のやり方というのができたら、それを導入して、定着させることです。 定着させて事業としての成果が出ていく、ということが大切です。

業務を見えるようにしてみよう

 手法は色々ありますので、BPRの進め方などで具体的なところ調べていただいてもいいと思いますが、先ほど話したようにソリューションありきの場合は、ブラックボックス化した業務がどんな状態になっているのかということが誰にも分かっていない状態です。

まずは業務をぐちゃぐちゃになっているところから引っ張り出してきて、見えるようにすることをおすすめします。
そのときに使うもので、業務フロー図と業務棚卸表というものがありますが、まずは一度可視化して問題点を探してみるというのが一つかと思います。

業務を見えるようにしてみよう

  業務フロー図の書き方ですが、私は一旦業務棚卸表で全体の業務を洗ってから、それぞれをフローチャートに落としていくというやり方が効率的だと思うので、お勧めします。

業務を整理整頓してみる

  このように、今までブラックボックス化していて、どうなっていったのかわからない業務が目の前にポンと出てきます。
そうすると、ここからリデザインといって、業務を新しく整理していくということが必要ですが、そこで業務の大掃除のようなことを手伝ってくれる一つのフレームワークをご紹介します。

それがこのECRS(イクルス:Eliminate, Combine, Rearrange, Simplify)というものですが、EからSの順番に沿って業務を廃止したり、合体したりコンパクトに整理させていくようなフレームワークの一つです。
まず一番はじめに考えなければいけないのが、「E」廃止、仕事自体をなくせないのかということです。

今やっている業務で、当たり前になっていた成功体験から、それがいいはずだったと思われていた業務のルールやプロセスをなぜこれをやっているのかと、そもそもこれをなんのためにやっているのか、お客様にも役に立っているのか、ということを問いかけてみて下さい。
そのときにもう少し突っ込んだ質問として、これもしなくなったら、思い切ってなくしてみたらどんな困ったことが起こるんだっけ?と考えてみると、その回答がかなり自己都合だったり、社内を向いていたりすることもあります。
いやいや、それはお客様都合になっているんだっけ、お客様起点なんだっけ、というふうに問い続けてみて下さい。

これをやってそもそも仕事を無くせないかということを考えると、副次的に業務目的がなんなのかみたいなことも期待できますので、一番最初に整理するという中でも最も改善効果が高く、改革効果が高いステップになります。

続いて、「C」で結合、その作業を結合できないのかということを考えます。
廃止できなかった場合に、この作業とこの作業を一つにできないのか、他の種類と統合できないのか、バラバラに管理しているデータや仕事はないのか、といったことを問いかけてみて下さい。

次に、「R」、入れ替えと代替ということですが、そもそも仕事を結合したり、分離したりできないのかを考えつつ、作業手順を変えられないのか、ABCという作業手順だったものをCBAに変えたりだとか、担当者がAからBとか、部署がAからBだったものを変えられないのかとか、もっと大胆にいくならば、企業側からお客様側というプロセスだったものを、逆にお客様から企業にするとか、手順や担当を変えられないのかということを考えてみて下さい。

「S」は単純化、もっと簡単にできないのかというのがECRSの中の一番最後にあたります。
最後の仕上げのところで、やっとシステムやテクノロジーをどう使うのだとか、自動化できないのかということを考えます。
このパターンでは、ECRが無理だった場合に、もし時間が半分しか無かったら、本当にどうやってやるんだろうかとか、頻度を減らせないのか、管理する項目を減らせないのか、もっと楽にできるテクノロジーや技術はないのか、デジタル技術はないのかと考えてみて下さい。

「S」に辿り着いた時点だと、具体的に自分たちに合うソリューションやデジタル技術みたいなところがもう少し具体的に議論として上がってくるようになっていると思います。
現場の仕事を全く見ずにぐちゃぐちゃのままに検討していた視点とは、全く違う新たな視点が見えてくるかなと思います。

業務改善による解決方法

 BPRというところで、その今までの組織風土、成功体験による業務のプロセスやルール、規則みたいなところを抜本的に解決していこうという視点で見てみました。
その結果、何かしらのデジタル技術を活かした業務に変えていこうという流れになったときに、これって運用して定着させないと効果が出ないので、このステップになったときにはトップダウンからボトムアップの活動に移していくことが大切です。

導入後はボトムアップでふりかえり

 最初に、なにかしらのソリューションを入れる時でもそうですが、導入したあと、業務を変更したあとに、具体的にそれをどのように評価するかというのは、ある程度最初に決めておいたほうがいいポイントです。

その時に、定量的な評価の方法と定性的な評価の方法の二つの軸で決めておくといいと思います。
この評価の軸を先に決めておいて、この軸をもとに業務改善活動の振り返りを現場主体で行なって下さい。
この時には、先ほど言ったように業務改革ではないので、大きな改革はある程度終わっている状態です。

決まった屋台骨の中で、具体的にもっと良くすることはできないのかというのを、現場主体で考えて下さい。
この時も景色が合っていないと、なんだか突然、業務変革につながるような大きなことを言ってしまう人がいたりだとか、何かすごいことをやらなければいけないんじゃないかと思ってしまう方もいますが、そうではなくて、まずは一旦現状のフロー、そこを肯定した上で、じゃあもっとよくすることができないのかという視点で、PDCAを回してもらうのです。

最初にどのような評価をするのかを決めて、振り返りを実施していくのですが、その時の手法として、業務改善のフレームワークでKPTというものがあります。
これは「Keep」「Problem」「Try」の項目に分けて、色々と設定した評価基準を振り返っていくというフレームワークですが、お勧めです。 こちらも調べていただいたら、色々なものが出てくると思います。

私の本日の発表のまとめですが、デジタル技術を活用するというところは、現時点で日本は少し遅れているのかもしれませんが、デジタル技術の素地自体は既に整っていると思います。
ただし、ビジネスや事業としての成果が出ていない状態です。
その理由としては、やはり過去の成功体験に縛られてしまって、業務や規則に、それに縛られたままのところに新しい技術をのせていこうとするので、成果がなかなか出ていないんじゃないかと思います。
業務のありかたは、過去を否定するわけではないのです。
業務のありかたは変わっているのに、組織風土が変わっていないということ自体がリスクであるということです。
デジタル技術は手段であって、目的にはならないので、ソリューションありきで何か解決しようと思っても、やはりなかなか成果は出ないのです。
何度も言いますけれども、最終的に、DXというのは改革です。
BPRの言葉を借りますと、抜本的に斬新にプロセス重視で変えていくことが必要になっています。
今こそ過去を疑って新しい業務の在り方を作っていけるといいのではないかと思います。
一緒に頑張りましょう。

それでは私からの発表は以上です。
ご静聴ありがとうございました。

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