AWS大規模障害が突きつけた「集中リスク」
先週発生したAWS(Amazon Web Services)の大規模障害は、その影響の広範さから、改めてクラウド依存のシステミック・リスクを浮き彫りにしました。
今回はこの障害の経緯を振り返るとともに、英国で進む規制議論、そして日本のガバメントクラウドにおける集中リスクについて考察します。
AWS障害の実態 ― 単一リージョン依存の危うさ
今回の障害は、2025年10月20日(月)にAWSの主要リージョンである「US-EAST-1(バージニア北部)」で発生しました。
Amazon自身のサービス(Alexa、Ringなど)に加え、世界中の多数のSaaS、金融サービス、オンラインゲームなどが数時間にわたり機能不全に陥りました。
AWSの発表によると、当初はDynamoDB APIエンドポイントのDNS(Domain Name System)解決の問題が原因と見られていました。
しかし最終的には、内部ネットワークの健全性を監視するサブシステムの異常が連鎖的な障害を引き起こしたと説明されています。
今回の事例は、たとえマルチAZ(アベイラビリティゾーン)構成を採用していたとしても、特定リージョンに依存する共通基盤サービスが停止すれば、リージョン全体が単一障害点となり得ることを改めて示しました。
英国で加速するクラウド規制 ― CTP制度の導入
このAWS障害は、英国で進行中のクラウド規制議論に一層の現実味を与える結果となりました。
英国では、金融システムの安定性を確保するため、大手クラウドプロバイダーを直接規制下に置く新制度「重要サードパーティ(CTP: Critical Third Party)」の導入が進められています。
この制度は、AWSのようなCTPのサービス中断が金融システム全体のリスクとなることを防ぐため、クラウド事業者そのものを金融規制当局(BoE/PRA/FCA)の監督下に置くものです。
これにより、「最低限のレジリエンス基準」や「情報開示義務」が課される見込みです。
英国の動きは、ユーザー企業への規制ではなく、クラウドベンダーを直接対象とする点で画期的です。
今後、他国が追随する可能性も高いでしょう。
日本のガバメントクラウド ― 集中リスクの現実
日本でも同様の課題が見え始めています。
デジタル庁が主導する共通クラウド基盤「ガバメントクラウド」では、AWSが正式に認定され、現状では約6割強の案件で採用されています。
この「一人勝ち」状態は、利便性の裏で英国と同様の集中リスクを日本の行政システムにもたらしています。
クラウド時代の教訓 ― “Resilience”を設計する
今回の障害は、クラウドが万能ではないという冷徹な事実を再確認させました。
しかし同時に、クラウドはもはや避けて通れない基盤でもあります。
だからこそ、導入時には「どのように備えるか」が問われます。
・ベンダー選定
割引率や機能だけでなく、「集中リスク」の観点から真のマルチクラウド分散効果を評価すること。
・設計とSLA
稼働率(Availability)だけでなく、RPO(目標復旧時点)やRTO(目標復旧時間)など、障害後の「回復力(Resilience)」を前提に設計すること。
・情報収集
英国のCTP制度に代表される国際的な規制動向を注視し、日本の法規制が今後どう変化するかを予測すること。
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