インフラ屋の「見えない」仕事
2025年の夏、日本各地は記録的な猛暑に見舞われ、最高気温が40度を超える日も珍しくありませんでした。そんな中、お盆休みに入った頃から急激に天候が変わり、九州地方では線状降水帯の発生により、各地で記録的な大雨と甚大な洪水被害が発生しました。熊本・福岡・長崎では大雨特別警報が発令され、住宅やインフラの浸水、道路冠水、河川の氾濫、土砂災害、交通機関停止など、地域を支えるあらゆる仕組みが試練に直面しました。
こうした災害時、治水・エネルギー・交通などを担うインフラ維持・復旧の担当者は、水面下で膨大な工夫と調整を重ね、被害拡大を防ぎつつ社会の「平常」を取り戻そうと奔走しています。
実はこの構造は、ITのシステム運用やセキュリティの現場にもよく似ています。日常的にトラブル防止や安定稼働に努めても、その価値は災害や障害が起きなければなかなか可視化されません。
システムやサービスにトラブルが発生したときは、その復旧にあたったエンジニアが注目を浴びやすいものです。
一方で、「トラブルを未然に防ぐ」仕組みを地道に構築・維持する運用保守・セキュリティ・品質管理・リスクマネジメントの役割は、その成果が”当たり前”として扱われ、評価されにくいのが現実です。
さらに、ルール整備や予防策は現場からは「窮屈」だと嫌われがちで、徹底が不十分なまま問題が起これば「守らなかった」と上層部から叱責されます。事故やインシデントが発生すると「無能扱い」される風潮すらあり、本来評価されるべき「何も起こらない」状態は、組織内でも外でも見えにくいのです。
特にサイバーセキュリティ、運用保守、リスク管理、品質管理といった役割は、「何も起こさない」こと自体が最も評価されるべき成果であるにもかかわらず、現実には「何も起きなかった」という価値は組織内外で顕在化されません。
社会インフラもITインフラも、「平常」を保つためには見えない努力と膨大なリスク管理が不可欠です。それらは滅多に脚光を浴びませんが、近年の自然災害やサイバー脅威の激化、社会インフラの複雑化を踏まえ、「平常が続く」のは現場の無数の工夫とリスク管理の賜物であること、その「見えない努力」を組織として認識し、正当に評価する文化の醸成が重要です。
ITプロフェッショナルの皆様が、自ら「見えない価値」を言語化し共有し、組織とともにリスク予防の重要性を啓発することこそ、災害やシステム障害を“他人事”から「自分たちの課題」へと引き寄せ、より強靭な社会を築く第一歩となります。