経済産業省 商務情報政策局 田辺です。
私の経済産業省に入る前のバックグラウンドとしては、電気工学を専攻して、技術系で、その中で主にITやセキュリティなどに多く関わってきました。
今回、DX(デジタルトランスフォーメーション)の施策を担当させて頂いて、単純にシステムをどうこうするところではなくて、企業の経営そのものの話に踏み込んでいくということで、私はまさに今技術者と経営者が重なっていくような仕事をしています。
そういった面で、これからお話しさせていただくことがお役に立てればと思います。
新型コロナウイルス感染症拡大により浮き彫りとなったデジタル化への課題
まずDXのお話に入る前に、新型コロナウイルス感染症拡大と、その中でデジタルがどう作用、又は影響してきたのかという点について簡単にご紹介します。
まさにご案内の通り、経済社会生活、それから行政、働き方、色々な観点で、例えばオンライン手続きに不具合があったり、押印があるからテレワークができませんということであったり、教育をしようにも基盤がなかったり。
今回のことで、本来デジタルで対応しなければならないところがなかなかできていなかった、ということが、みなさんもご承知の通り明らかになりました。
従って、単に今まで人がやっていたやり方をデジタルで置き換えるということではなくて、デジタルを前提に色々やらないと、いざという時にもこういうトラブルが起こるということを、まず理解する必要があります。
デジタルトランスフォーメーション(DX)について
デジタルトランスフォーメーションについてですが、これはもうずいぶん前から定義をさせていただいています。
単なるツールの導入ではなくて、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに変革をしていくことがまずあります。
これは単純にビジネスモデルを変革するというだけでなく、企業文化も変革するということで、最終的には競争上の優位性を確立するということを経済産業省におけるDXと定義をして、これは何度も色々なところでお話しをしています。
ですので、さすがに何かを導入すればDXだとか、DXはどこで売っているのだとか、そういった話ではないということは、もうご理解いただいていると思います。
従って、従来のIT化が今までやってきた業務をデジタルに置き換える、あるいはそれをコンピューターに任せるというようなことをこれまでやってきたわけですが、そういうところから一歩踏み込んで経営のやり方や、ビジネスそのものを変えていってしまうということになります。
こういったものをまさにトランスフォームするということを、ITやデジタル化と違うという点で認識しなければならないということです。
DX推進政策の考え方
DX政策の進め方ですが、もともとこれは企業の個社の問題であって、本来は経営の話です。しかし他方でDXが進まない理由として、このデジタル技術に係る知識不足や無理解、これは色々なところでお話していますが、SDGsや環境、あるいは女性の活躍といったことに関して、経営者の方が「私それ分からないんです」と言ったら大変なことになります。
一方でデジタルに関しては、「分からないんです」と言っても、「いや私もなんです」と意外と仲間が多くて、結果としてなかなか理解が進めない、そしてベンダーさんに丸投げをするような関係になっているのが、ずいぶん長く続いてきているのが一つです。
もう一つは、社内がIT部門、ここは大変知見のある箇所ですけれども、そういったところが日々の仕事が非常に忙しくて、なかなか対話ができていないといった状況があります。
また、DXがなかなか進まない現象というのは、生活習慣病のアナロジーで一番理解をしやすいと思っています。
誰でも一般論として、メタボよりも痩せたほうが良いに決まっていますが、自分自身は健康だし、何もしなくても良いと思っています。
これを健康診断のたびに言われても、なかなか生活習慣病の元になるところから、それを止めようという行動に行かないのと、割と似ている状況です。
従ってここは、認識をまさに入れ替える、周りがもうみんなやっていますとか、そういう周辺の整備が必要になってくるわけです。
そういったわけで、国の政策はまずもって内面の働きかけ、つまり問診票みたいなもので、あなたは息切れがしますかとか、そういった意味合いでのDX推進指標と、それから環境整備、デジタルガバナンス・コード、あとでご紹介しますが、こういった市場での評価で、あなたの経営活動はデジタル的じゃないから、あまりその先伸びませんよねと判断されて、投資が引かれて行ってしまうことになるような環境整備が必要になります。
あるいは株が売られてしまうと、認識せざるを得ない。「デジタル分からないんです」とか、堂々と言っていられなくなります。
こういったところを押していくことによって、DXが進んでいけたらということで、取り組んでまいりました。
DX推進施策の展開
そういったDX推進施策の展開ということで、2018年9月にDXレポートというものを出させていただきまして、それからずいぶん時が経ちました。
その際に法律の改正であるとか、自己診断、それからDXの準備ができているところを認定していくという仕掛け、まさに昨年の11月から本格的にスタートして、現在98件ほど認定企業がいるわけです。
そういったことが、色々なメリットを得たり、あるいは実際認定を得た方からのお話しとしては、営業がしやすくなったり、デジタルが進んでいるのだという認識がお客様との関係でもできるようになったという話を色々いただいておりまして、認知が進んできていると実感しています。
まさに11月から始まってまだ半年ですので、件数としてはこれからですが、これがさらに増えていくといいなと考えて、昨年の12月に「DXレポート2」という続編を取りまとめたところです。
DXの流れ~1)経営への位置づけ、地上からの評価の確立
DX政策の流れですが、経営への位置づけ、市場からの評価の流れの体系をお話したいと思います。
DX認定制度~DX銘柄(ステークホルダからの評価へ)
これは裾野が広い企業がたくさんいるところから、非常に優れた人たちをピラミッド式であらわしているものです。実際にはDX-Ready以前と書いている一番下のところがものすごい数になっていて、ここはまさに自分たちで気づかないといけないという点でDX推進指標を使っていき、そこから上にいくと、認識をして何をしなければいけないのかということが分かってきます。
その取り組みに関して、それを進める準備ができているということを国の仕組みとして認定させていただき、その認定をされた中で実際に結果を出している企業については、東京証券取引所に上場されている方々であれば「DX銘柄」というものをご用意しています。
デジタルガバナンス・コード
そういったことで昨年11月に、デジタルガバナンス・コードというものを公表させていただきました。こちらはそれほど量としては多くないので、経営者の方々でも一人一人目を通せるものだと思います。
その項目としては、経営的には当たり前であるビジョンであったり、ビジネスモデルであったり、戦略があって、その戦略のうち組織とか人の話と、システムの話、そしてKPIとガバナンスといったような観点で、どういった要素を満たしているとこれからDXができるのか、そして、本来望ましい方向性としてこういう方向を向いていくといいなど、実際に取組む例などをとりまとめたものです。
そういった意味で、当たり前のことが書いてあるのですが、そこを体系的にしたという点で、どこか取りこぼしがないのかとか、ここからの体系で少しずつ深堀りをしていけばいいという点で、まずここからスタートするのが望ましいのではないかと考えています。
DX認定制度
DXの認定制度に関しましては、同じくこのコードが公表された11月から本格的に受付を開始しました。先ほどお話ししました通り、98件の認定がすでに行われています。
これを取ると、中小企業であれば低利の融資を受けられたり、あるいは現在国会で審議中ですけれども、その法律が通れば、DXの投資促進税制というものが認められるようになったりするといったような仕掛けの入り口として、この制度を採用している状況です。
銘柄に関しては、これまでも攻めのIT経営銘柄ということで5年くらい続けてきていますが、この銘柄を先程のデジタルガバナンス・コードという体系、またはその認定基準を前提として、その中の体系で項目をしっかり押さえた上で、ある意味結果を出している企業の皆様を、有識者の皆様、投資家を含む委員会の方々、そういった方々から意見をいただきながら選定をしていきます。
こういう形にやり方を変えさせていただいて、一貫性を持った形でこの銘柄を選んでいくというものの、最初の年が今回の銘柄です。
さらにこのDXの取り組み、今までのデジタルガバナンス・コードは、全企業に共通するような取り組み、あるいは体制などを記載させて頂いています。
これは産業別に、色々なビジネスの実態がありますので、そういった実態にあわせて、例えば製造業、例えば金融業といった形で、個別リファレンスケースを作っていくのが参考になって有意義ではないかということで、製造業についてはその取り組みの方向性を示しています。
さらにIPA、独立行政法人情報処理推進機構で製造業におけるDXの推進の検討をして、下の表に書いてありますけれども、DXの理解とか事例集とか、DX度合いのチェックだとか、あるいは理解するための漫画のようなものも用意して、中小企業の方が馴染みやすく分かりやすくするための取り組みも、順次準備をさせていただいているところです。
DX政策の流れ~2)コロナを踏まえたDXの加速
さて、DX政策の流れとして、先ほど大枠の歴史といいますか、流れはご説明しました。
このコロナの中で、このDX推進指標を各企業の皆様に自己評価をいただいて、その結果を分析させて頂きました。
実はこの推進指標、コロナの前の2019年からスタートしていますが、2020年になって先ほどご説明しました通りコロナによって、デジタルが大事だと誰もが言うようになった状況です。
その中で、昨年の推進指標の結果はこのDXに対する認識がさぞかし高まって、やはりコロナを乗り越えるにはデジタルしかない、我々頑張りますという状況になり、ただちに実際のアクションを取っていこうという状況になったのではないかと、我々としては考えていたわけです。
DX推進指標の分析結果(2020年末時点)
しかしながら、この昨年の段階での調査結果を見ると、9割以上はDXに関してはそもそも取り組んでいない、部分的にしかやっていないという状況の企業が圧倒的に多いということが明らかになりました。指標の意味としては、0が何もやっていない、関心がないということで、3が全社的なもので、5が海外の子会社の色々なところも含めてグローバルに対応しているといったレベル感です。
従って3というのは全社的にやっているという意味では、これがDXだろうという一つのラインとして考えていただければいいと思います。
そうなったときにこの3以上の人たちというのは、少し数は増えていて、その中での平均というのが3.6というのがあるわけですが、全体的には1.5になっていて、散発的にやっているか部分的にやっているか、パラパラとしかやっていないということが明らかになっています。
企業のDXに対する危機感の現状
さらに、企業の危機感に対する現状というものも、こちらは日本情報システムユーザー協会さんの調査ですが、デジタル化に関する取り組み状況として、自分たちがトップランナーであると、進んでいると思っている企業が4割位います。その一方で、ビジネスモデルの変革の必要性の認識というのは、7割以上の企業は今のビジネスモデルの継続が前提だと思っているということと、経営に対するデータの活用は7割以上ですが、この企業が部分的にデータを活用しているということで、やはり今のビジネスの前提だとか、データを全社的に使うわけではないので、部分的に活用できればいいということが明らかになっています。
しかし、4割位はトップランナーだと思っているので、DXというのであれば、これは全社的にやっていかなければいけない中で、まだまだなかなか認識が進んでいないところが見て取れます。
DXレポート2の概要(背景)
そういったわけで、昨年末のDXレポート2に至っていくのですが、冒頭にご説明させていただいた通り、DXレポートにおけるDXの定義というものは、レガシーシステムの刷新だけではなくて、企業文化とか慣習とか、そういったものにも踏み込んだものだというところを示させていただいておりました。
このレガシーシステムから脱却をして、そこに割いていったIT投資、つまりは維持メンテナンスの費用が全体のIT投資の8割に至るわけですが、システムを刷新して近代化することでその分の投資を新しいビジネスモデルのほうに振り向ける、これがDXだということが、大きな力点として置いてあったのがDXレポートの初代のほうです。
ところが、そこだけがすごくフォーカスされてしまったところはやむを得ないところもあり、あるいはその定義の中で競争上の優位性を確立することがDXだと定義した結果として、DXによってコスト削減をすれば、それはDXだということも言えてしまったという現象が生じました。
つまり、RPAを入れて人件費が削減したと、よって競争力が上がったのでDXですというのも、議論としては言えなくはないわけです。
こういった間違った解釈が進んでしまったのではないかというのが、我々の反省です。
一方で先程のグラフで、あれは2020年の結果で、これは2019年と20年を足した結果なので少しだけ数字がずれていますが、傾向としては同じ状況です。
さらにコロナの中で明らかになったこととして、この事業環境の変化は通常、ゆるやかに起こっているものですが、とはいえ長い歴史の中からすれば結構早く変化しているのがビジネス環境です。
しかしコロナによって環境の変化が起こったというのは、非常に短い時間で、例えば2ヶ月とか1ヶ月とかそれくらいの単位で起こったということで、ここの部分に対応できる柔軟性を持っているところは、どんな事業環境の変化であっても迅速に対応できるのではないかと思います。
それにはやはり今までのやり方が当たり前だと思わない、つまりハンコを押さなければビジネスはできない、対面で合わないと相手が納得しませんとか、そういうものが一気に変わってきたというところを、まず認識する必要があります。
もう一つはそういったデジタルサービスをエンドユーザーの皆様、つまりテレワークをやっていたり、あるいは外に出かけたらダメだということで、感染拡大しないように家で頑張って対策してきたりしたという方は、このデジタル技術を最大限にフル活用して、それこそネットショッピングだけではなくて色々なサービスをデジタル技術による仕組みを介して受けるようになって、ある意味食わず嫌いの人でも、十分にデジタルを使える、あるいは使いこなせるようになってしまったということです。
むしろ、エンドユーザー、お客さんのほうがデジタル的には先に進んでしまったと理解をしたほうが早いでしょう。
一方でこのDXってあまり進んでいないし、この状況はあと1、2年くらい続くけれども、また戻ればハンコも戻るよねと思っていると、大きな誤りをしてしまうのではないかと考えています。
従って、DXレポート2では、レガシー企業文化から脱却していくというのがDXの本質だということで、実はDXレポート1の定義でも企業文化の話には触れていますが、システムを変えるだけじゃないというところを、改めてメッセージを発信させていただくために、昨年末に出させていただいたわけです。
DXレポート2のサマリー(DX加速シナリオ)
そういったことで、このレポート2のサマリーの画面、一つ一つご説明すると大変なので、こういうのがあるよというところのために示させています。検索をしていただくと出てきますが、今までご説明したような背景とこれから向かう方向性、そしてそのための施策というものを一枚でまとめていますので、宜しければ検索してご確認いただければと思います。
それをもうちょっとガサッと書いたのがこちらです。
時間軸と企業のアクションと政府の取り組みを整理して、すぐにやることと短期的にやること、中長期的にやること、ということでいくつか出したツールの中で、企業の関係者の中で共通理解を作っていくための要点集、ポイント集を作ってコミュニケーションツールとして使っていただくとか。
先ほど少し解説をしました、税制の改正などの用意をして、徐々にDXを進めるためのツールであったり、それを推し量るものさしであったり、そんなものを増やしていっている状況です。
DX政策の流れ~3)デジタル産業の創出へ
DX政策の流れということで、今までが個社のDXを進めるにはどうしたらいいかという話をしていましたが、今後はそれがもう少し発展して、デジタル産業という名前に借り置きでしていますけれども、そういったものがどんどん出てくるのではないかと考えていますので、そのご紹介をしたいと思います。
今後の産業構造の方向性
今後の産業構造の方向性というのは、当初の中小企業庁のほうで議論していたものですけれども、これまでの左側にある大企業牽引モデルという、大企業が先頭に立って頑張って売り上げないし利益を上げて下の企業に発注をするという構造になっていました。これはITベンダーに留まらず色々な産業でこうなっていますが、これがネットワーク型に変わっていくだろうと言われています。 これはデジタルの力によって、営業先や、あるいは合わせなければいけない規格などが多様化しても、コスト的にそれほど問題なくなってきたところが大きな要因ですが、そういう意味で価値の作り方というのも非常に多様化してきています。
そういったことでこのDXを捉えていくと、我々の業界はこのシステムを使う側としてのユーザー企業と、システムを作る側のベンダー企業という言い方をよくしますが、これらはDXを両方とも、主にユーザー企業のことを論じてきているわけですけれども、それに対応するベンダー企業のほうもDXを当然やらなければいけません。
これが進んでいくと、それをデジタル企業と呼んでいますが、ユーザーとベンダーの差というのはだんだん無くなってきます。 つまり、他社に対してデジタルの能力を提供して対価を得るようなビジネスだったり、自らがそのサービスを提供する主体になったり。
それが入り乱れて、先ほどのネットワーク型のような形になっていくのではないかと考えておりまして、そういったデジタルの能力を提供する主体をデジタル産業と位置付けて、主にクラウドで提供されるものですが、そういった形になっていくだろうと考えています。
討議結果:デジタル社会とデジタル産業の姿(仮説)
そういったことで、将来のデジタル社会というのを描いた上で、今のデジタル産業の要件はなんだろうということを明らかにしていくと、目指すべき道筋がわかっていくということを現在検討しています。デジタル社会の姿やデジタル社会の特徴というのは、ここで斜め読みをすればわかる通り、価値の提供が非常に早く行われる、それが地方であったり、東京であったりというのはあまり関係なく、価値の高い、今風の言い方で言えばエクスペリエンスの高いものが提供できれば、そのビジネスに参画できます。
そして競争上あまり関係ないところは、例えばマップや検索などは、市場にあるものをとってきて活用して、それを組み合わせればいいということになります。
そういった環境のなかで、人の判断ではなくデータによって機械が判断したり、言語の壁はありますが、今は自動翻訳などもありますので、作ったサービスをただちに世界に出していくと。
従って、日本で売れたからそろそろ海外展開しようかという話ではなくて、同時に世界に売っていくことができるわけです。 このようなことを提供していく主体が、もっと日本から出てくるといいなと考えています。
デジタル産業の構造と企業類型(仮説)
その構造については、先ほど申し上げた大企業牽引モデルというピラミッドの形から、上にあるような、いくつかの企業のノードが相互にくっついたり、あるいはくっつかないでも良いのですが、この企業のノードが乗っかるようなプラットフォームを出したり、そこにテクノロジーを提供してずっと運用していくような下支えをする人がいたり、あるいは自らサービスを提供するなど、色々な形になっていくだろうと考えています。今はユーザー側の皆様であっても、もっぱらシステムを使って本業のサービスを提供するだけではなくて、本業withデジタルみたいなところで培ってきたデジタルの能力というのは、他でも売れるのではないかということで、多面的なビジネスに変わっていくと考えています。
そういった類型が、今のところではこの企業を変革するパートナーであったり、技術の提供であったり、プラットフォームであったり、サービスを提供したりというようなものを念頭に置きつつ、分類をしまして、それぞれについてどういったことをするかということを考えています。
政策の方向性
それを類型ごとに、どういう備え、あるいはスペックがあればいいのかを整理すると、ある意味自分たちの強みを活かして、そちらを伸ばしていくような道標になるのではないかということと、それからその成功のパターンを示していくといいのではないかということを、まさにこれから議論しようとしています。
その際には中小企業であれば、IT導入補助金や事業再構築補助金、あるいは税制の改正などで対応していきたいと考えています。
半導体・デジタル産業戦略検討会議
そういったことで、デジタル産業というものを議論してきましたが、もう少し引いた目でみると、このデジタル産業の下にいるデータセンターや、通信の基盤、もっというと半導体などが、みんな寄りかかかっています。
こういったものも含めて、我が国に根ざした産業をしっかり育成していくべきだろうという議論も別途行なっています。
外資の皆様が良くないと言っているわけではなくて、そういったところもどんどん参入していって、我が国に根ざした、そういった色々な企業のサービスをエンドユーザー、あるいはユーザー企業が、どこかにロックインされるのではなくて、色々選んでいけるような世の中にできていくと、より競争力も上がっていくのではないかと考えています。
DX政策の流れ~4)DXを支える人材の育成
最後に、それを支える人材の話をお話しして終わりにしたいと思います。
デジタル人材育成に関する根本課題~日本企業が向かうべき方向性
人材の育成については、これまでもデジタル人材が足りない、IT人材が足りないとずっと言われてきました。
もともとITに対する姿勢といいますか、関わり方がこれまでの企業のミッションというのが既存ビジネスの効率化、改善のようなものだったことからすると、ITは効率化するための道具に過ぎませんので、安ければ安いほどいいという力が働きます。
従って、そこに高い報酬を払う必要は全くないし、安ければ安いのがいいに決まっていると、こういうようなところで、なかなかスキルアップをするという機会もないと。
従って人も育たないし、人もいないというようなサイクルになっていたということです。
それがこれからは人の真似をしてもだめですし、その効率化というのもどこかでそれを圧倒的なデジタルの力で乗り越えてしまったりする人がいるという点で、常にビジネスの創造を革新していかなければいけないというところが、競争環境は厳しくなりますが、やらなければいけないところです。
そうなると、IT自体がビジネスの創出、革新の武器になりますから、そのための人材にはしっかりとした報酬をもって報いる必要がありますし、その人材へのスキルアップというのもしっかりやっていかなければいけない、これが根本的な課題、あるいはそのために向かっていくべき方向性だと考えています。
デジタル人材育成に向けて必要な取り組み例に関する検討事項
そのために何をすべきかは、検討会で議論を進めていますけれども、だいたいこの3つくらいに収斂するのではないかと思います。企業内では、この中でリスキリングを促進していくということで、海外ではよく転職をするので、市場から人材を調達してくるということになってくるわけですが、今はこういった人材自体がすごく少なくて、外から調達してくるのも非常に大変です。 そこで実は社内でリスキル、能力をアップするという方向に外国の企業もなっているようです。この方向性は日本においては、結構得意な話になってくると思いますが、単純に何か研修を受けて終わるというよりは、この人にはこういう仕事に就いてほしいからこういうスキルを身につけてほしいんだということをしっかり会社の中でやっていくと、そういった企業にみんなが集まってきて、より強靭な企業になってくるというサイクルが生まれます。
こういう世界をどうやってつくっていくかが一つです。
そのために学ぶ場所が必要ですが、社内ではなかなか限界があるので、これを共通のものとして用意していくにはどうしたらいいかがもう一つ、そしてこの目に見えないスキルを見える化することによって、能力のある人が正しく処遇されるにはどうしたらいいのかを探る、この3つをまさに議論をしている最中です。
METI・IPAが実施する人材関連施策
その中でいくつかの施策がありますが、高度なスキルを学べる講座を認定して、その中の一部は教育訓練給付金から最大70%補助をもらったり、あるいは突出した人材を発掘して育てていくMITOUの事業であったり、若年層の人たちに課外活動や部活みたいなところをやっていって全国1位を目指していただくような取り組みをやったらどうだとか、あるいは昨年末から各企業さんで出されている教育コンテンツを一覧にして、検索ができるようなオンラインの学習ポータルサイトみたいなものを作成したりですとか、こういったものを展開しているところです。
AI Quest(課題解決型AI人材育成)~拡大生産性のあるAI・データ人材育成~
さらに、AIに関してはまさに教育のやり方と、教材がまだまだ整備されていないので、これを用意していこうとしています。
色々な方法があって、必ずしも今この瞬間、やり方が必ずこれで勉強できますというものがない状態ですが、AIを学ぶ方法というのは、もとより正解がない世界において、ああでもないこうでもないと議論しながら作っていく過程でスキルを身に付ける方法が有効であり、その方法論を確立していくということを、まさに今実施をしているところです。
最後になりますが、人材のところまでお話しをさせていただきましたが、今日のメッセージとしまして、DXを進めるということ関しては、企業の文化まで踏み込んでやらなければならないということです。
そのためには技術を何か入れて終わりだとか、経営者が知っている人に任せて終わりだとか、人は自分たちで育つんでしょみたいなのはダメであるとか、そういったところを改めて各経営者の皆様だけではなくて、それを支えている皆様も自分のこととして捉えていかなければなりません。
これは我々、私もそうですけど、偉そうに言っているように見えますけど、政府も全く同じです。
まさにそういったデジタルを使っていかに行政を効率化するかというところもしっかり取り組んでいかなければいけないという意味で、それは企業だけでなくて自治体もそうですが、まさにそれが今一気にみんなが進めようとしているという認識だということと、それに対して色々なツールはだいぶ揃ってきたというところで、まさにここでスタートダッシュできるところは一気に伸びていくのではないかと考えています。
今回のお話を聞かれた皆様は、そういったDXの取り組みをさらに進めていっていただければ幸いです。
それでは、長くなりましたけれども、私のお話は以上とさせて頂きます。
ご清聴ありがとうございました。