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Ops Summit 2021 2021.6.16 wed - 6.18 fri Ops Summit 2021 2021.6.16 wed - 6.18 fri

DXはCXとEXのために

株式会社クレディセゾン
専務執行役員 CTO(兼)CIO
小野 和俊氏

みなさん、こんにちは。
クレディセゾンCTO兼CIOを務めております小野和俊と申します。どうぞよろしくお願いします。

今日はOpsSummitということで、システム運用に携わっている方がたくさんいらしていると思います。
この分野は、世の中全体にデジタル化、DXが必要だと言われている分野だと思います。
但し「システム運用」は、日々システムを落とさないように、障害があったらすぐに復旧しなければいけないということで、守らなければならない側面が非常に多い。
その守らなければいけないことがある中で、デジタルで攻めていく、新しいことも攻めるところもやっていかなければいけないので、この両立がとても難しいし、もしそれができたら、本当に意味のあるデジタル化になるのだと思います。

もう一つは、DXと言うとややもすると先端テクノロジーを入れていくことがDXだと錯覚されがちですが、本当に誰かの役に立つものでなければ、デジタル技術を入れたけど結局成果が出なかった、ということになりかねないと思っています。

そのようなことを意識しながら、このタイトルにあるようにDXはCX、カスタマーエクスペリエンス、お客様の体験、またはEX、エンプロイエクスペリエンス、社員の体験をよくすることに寄与してこそ意味があるんだ、という話を、自分自身の事例や体験を踏まえながらお話をさせていただきたいと思います。

はじめに自己紹介をさせて頂くと、私はかなり色々な立場で、色々な規模の組織で、色々な場所で仕事をしてきましたので、簡単に紹介します。

大学卒業後は、外資系のサン・マイクロシステムズ、現オラクルに入社しました。
私自身は小学校の頃からプログラミングをやっていましたが、今も昔も「ITの世界で、シリコンバレーは5年先の未来が実現しているような世界だ」と言われています。

そういう話を聞いて、「そんな未来のような場所があるなら、ぜひそこに行って仕事をしてみたい」と思っていました。
外資系でアメリカに行けるチャンスがありそうな会社ということでサンマイクロに入社しまして、周りにも「ぜひアメリカのシリコンバレーに行ってみたいんだ」と話していたんです。
おかげ様で上司や環境に恵まれまして、「小野くん、ちょっと良さそうな機会があるから行ってごらんよ」と背中を押してもらいまして、新人研修が終わったあとに、シリコンバレーの本社に行く機会に恵まれました。
ここで4ヶ月くらい、JavaとXMLを使った開発の仕事を経験させてもらって、このままシリコンバレーでエンジニアとしてやっていきたいと思っていましたが、結果的にアプレッソというベンチャーを立ち上げることになりました。

これは今でいうエンジェル投資家のような方が、技術者で、社長として事業を立ち上げる人を探していて、私に声をかけてくれたんです。
もともとはアメリカでずっとやっていこうと思っていましたが、3回程その方とお会いする中で、意気投合しました。
「個人資産から10億円分用意したから、私は君に会社をやってほしいんだ」と言って頂きました。
アメリカでスキルアップの夢を見てはいたものの、そこまで言って頂けるのであればやろうと決意して日本に帰ってきまして、まだ24歳になったばかりだったのですが、アプレッソというベンチャーを立ち上げました。
そこで、データ連携、DateSpiderを企画・開発して、7年連続お客様満足度No.1ということで評価を頂いていますが、アプレッソはこれでずっと事業をやってきました。

そんな中で、もともとはDateSpiderの代理店として動いてくれていたセゾン情報システムズから、資本業務提携をしたいというオファーがありました。

アプレッソ自体はとても上手く行っていましたが、HULFTを持つセゾン情報システムズと組むことで、さらに大きなステージでたくさんの人に使って頂けることが期待できたので、セゾン情報システムズのグループに入りました。

今思えば、私のキャリアはここが大きな分岐点だったと思います。
外資だ、シリコンバレーだ、ベンチャーだ、エンジニアだとやってきた、ある種の前半部分からここが一つの区切りになって、それなりに歴史があって、SIもやっていて、パッケージも持っている日本企業での仕事が始まりました。

セゾン情報システムズではSIの中でも保守、運用、COBOLでメインフレーム、のような仕事が大きな割合を占めていましたが、そこも大事にしつつ新しいものも取り入れるということで、バイモーダルという言葉を掲げて、「バイモーダル インテグレーター」になっていこうと考えました。

「バイモーダル」のバイが意味するのは「守り」と「攻め」の両立です。
つまり、守りと攻めの両方ができるインテグレーターになっていこうと考えたわけです。
HULFTに関しても、メインフレームとの連携だけではなく、IoTやクラウドの世界でも必須だと言われるような製品にしていこうと、常務CTOとして経営改革に携わってきました。

そうこうしているうちに、今度はクレディセゾン本体がデジタル化やフィンテックの流れもある中で待ったなしだということになり、2019年からはクレディセゾンのCTOとしてやってきました。

私自身はエンジニアでもあるので、未踏ソフトもやっていたり、日経ソフトウェアでプログラマー向けの巻頭連載も執筆したりもしていました。
一時期九州大学の工学部大学院でITのリーダーとしてのあり方を教えていたり、本にも寄稿させてもらったり。そんなことをしてきています。

クレディセゾンは金融の会社で、セゾンカードを提供していますが、今現在3,700万人の方にカードを持って頂いています。
住宅ローンではフラット35でやっていまして、今は日本で2位です。金融の会社としてそれなりに歴史もあって、それなりに規模もある会社で仕事をしています。

クレディセゾンでやってきたこと

 具体的にどんなことをやっているのかと言うと、2019年の3月1日に入社した時、社内にはコードが書けるエンジニアがいませんでした。事業会社によくあるパターンですが、基本的に全てをSIにお願いをしていました。
僕としては、自分たちで作って、自分たちで運用して、自分たちで改善して行きたいと思っていたので、個人ブログを通じてエンジニアを採用することにしました。
事業会社でなぜエンジニアの組織を立ち上げようと思っているのか、ブログでメッセージを伝えようと考えたのです。2ピザチーム、いわゆる8人くらいのチームをつくろうということで、自分のブログで呼びかけました。

最初は本当にそんなことができるのかと不安もありましたが、たくさんの連絡をもらう事ができて、無事にチームを立ち上げることができました。

次に、チームの募集開始から数えて半年後にサービスをリリースすることを目標にしました。
チームは作ったけど、サービスのリリースまでに時間がかかったよね、ということでは内製の意味がないと考えてこのスケジュールを引きました。

ベンチャーのスピード感からいうと、どんなに時間がかかってもチームの立ち上げを含めて半年で一定の成果が出ないと遅いという感覚が当時からありましたので、ちょうど半年後の9月1日に「セゾンのお月玉」というサービスをリリースしました。

結構いい感じに立ち上がって、それまで12,000だったセゾンの公式アカウントのフォロワーが、半年強で22万人強まで増えました。
SNSのプレゼンスもかなり増えてきている感触がありましたので、新規のプロダクト開発のチームをちょっと小野さんのほうで見てよということになりまして、追加で見ることになりました。

その半年後の2020年3月には、今度はデジタルイノベーション事業部全体の担当になりまして、お客様のデジタル接点を統括する事業部部門を全て見ることになりました。
さらにその半年後には、全事業のデジタル化を進めていこうということでそれを見ることになりました。
ここでまたブログを使って、外部のエンジニアを採用すると同時に、エンジニアリングを学んでいく社員を社内公募を行いました。
今までエンジニアの仕事をしていなかった人が、一緒にプログラミングを勉強してコードを書いていこうという取り組みしました。
今、実際に異動してきた総合職の社員が総合職&スペシャリストのような感じでハイブリッド型の人材になって、外部からきた先輩にリードしてもらいながら一緒にシステムを作り始めています。

そしてさらにその半年後、今年の3月からは今度はその情シス的な部門、デジタルだけではなく、新規だけでもなく、それこそ保守運用も含めたIT部門とデジタル部門の両方を融合させたような組織にしていこうということで、CTOに加えてCIOも兼任することになりまして、IT部門の部門長もやっています。

DXはCXとEXが勘所

今日のテーマですが、私は今CTO兼CIOとして、まさに攻めと守りの両方をやらせてもらっています。
「DX」と皆が言いますが、一番大事なところが抜けていると思うことがあります。
一番大事なことは何かというと、当たり前のことですが、誰かの役に立つ、誰かの喜びに寄与することこそが、新しい取り組みの一番の勘所なわけです。

DXもその例外ではありません。
私はよく、このようにC・D・Eと並ぶのでいいなと思って「CX、DX、EX」という書き方をするのですが、CXやEXに寄与しないDXというのは、デジタル化自体が目的化していると思うわけです。

スマートスピーカーの時代

セゾン情報システムズにいた時の経験をお話します。
2015年の時にアメリカの事業立ち上げに関わっていたので、月1程度でアメリカに出張に行っていました。
そのとき、現地のメンバーがよくホームパーティを開いていたんです。
ある日仕事を終えて、メンバーの家でホームパーティをしていたときのことです。
ビールを飲みながら盛り上がって来て、「明日みんなで休みとってハイキングに行くか」という話になりました。
その時現地のメンバーが、「Alexa、明日の午前中の天気予報は?」と聞くと、「明日の午前中のこの地方の天気は、降水確率は」と返事するわけです。
今では当たり前の体験ですが、当時は驚きました。

調べてみると、その当時からkindleの売り上げを抜くほどAmazon Echo/Alexaの売り上げが伸びてきていました。スマホの次のプラットフォームなんだと聞いて、なるほど!と思いました。
但し、デジタルの間違ったやり方だと私が思うのは、そのノリでお客様に対してできるだけスマートスピーカーを使う提案をしていくことです。 こういうことをやってしまうと、無理矢理やっているなと思うわけです。

帰国したあとに、とても面白い技術で使いどころがきっと出てくるから、研究しておこうとメンバーに伝えました。
Amazon EchoではAlexaのカスタムスキルというのがありまして、プラグインのようなものを作れるんです。Amazon Alexaとしてできることだったらすぐ作れます、という状態にはしておいてほしいと伝えたんです。
ただ、準備はしておくけど、くれぐれも無理やり使うのはやめようということをチームには言っていました。

ハンマーと釘

よく「ハンマーと釘」ということが言われます。ハンマーを持つと全てか釘に見えてしまうという意味です。
まさにスマートスピーカーに興奮して、すべてをスマートスピーカーでやろうとすると、全てが釘に見えている状態になります。
ハンマーを持っているけど、必要な釘が出てきた時だけ使おうと。そういうことを伝えていました。

2018年10月、国内で初めてAmazon Alexaのスキルコンテスト開催

そのような中で、2018年の10月にAmazon Alexaのスキルコンテストが開催されました。
私たちセゾン情報システムズが法人部門で優勝した上に特別賞も受賞して、W受賞しました。
なぜ賞が取れたかというと、まさに待っていたからです。このコンテストを待っていたのではなくて、使いどころを待っていました。
それがドンピシャにハマって、それをエントリーしたら優勝することができたのです。

「クイックちゃん」の効果

ここでは、「クイックちゃん」というものを作りました。
セゾン情報システムズにはエンジニアが多いので、全体にデスクワークが多いわけです。
肩が凝ったとか腰が痛いといった話がよくあって、仕事中に社員が15分間無料でマッサージを受けられるクイックマッサージルームを社内に設置していました。

福利厚生と障害者雇用と二つの観点でマッサージルームを作っていましたので、ここでは目の不自由な方がマッサージをしていました。
ある日私がそのマッサージャーの方と少しお話しする機会がありまして、その時に「お仕事ってどんな感じですか?」と聞いたら、「いや、実はね」と。
盲導犬を連れている方だったので、通勤の時にも色々な人が手伝ってくれて、支えられながら生きているんです、と。
ここのマッサージの仕事でも、バックオフィス系の人がローテーションを組んで、常に誰か付いてくれているんだと言うわけです。

例えばマッサージが終わりそうになると、そろそろ終わるから次の人呼んでと伝えて、サポートをする人が紙の台帳を見て、次の順番の人に内線をかけていたんです。
色々と助けていただけて嬉しいけれども、お給料頂くお仕事くらいは一人でできたらいいと思うと、しみじみと言っていたんです。

自分のチームにその話を持ち帰ったときに、これは我々が研究したスマートスピーカーを使うときだという事になりました。
サポートに付いていた人の代わりにAmazon Echoを置いて、「クイックちゃん、次の人を呼んで」と言うと、クラウドの予約台帳見に行って、slackとかSkypeで次の人のスマホに連絡が行きます。

例えば営業の案件が延びたりすると、リアクションで「ちょっと長引いてるから次の人」と伝えると、次の人に繰り上げて呼ぶことも、全てやってくれる。
なおかつ、次に誰が来るのかもマッサージの方にリマインドしてくれるので、「あれ、佐藤さんだっけ?鈴木さんだっけ?」といったことも無くなる。

そういうことをAmazon Echoでやったら役に立つし、喜んでもらえるかもしれないということで、試しにやってみたんです。
その結果、定量的に言うと施術できる回転数が22%上がりましたし、サポートの工数も年間で192時間削減できました。
3ヶ月程運用したときに、マッサージャーの方ともう一度話す機会があったので「どうですか?」と聞いてみました。
そしたら、「小野さん、私今一人で仕事してる」と言うんですね。
DXとは、何より誰かの仕事の仕方が変わるとか、質が変わることに寄与するためのもので、デジタルそのものが武器になるわけではないんです。

こういった使い方こそが、この場合はエンプロイエクスペリエンス、EXのほうですが、役に立つものなのかどうかというのを正しく見極めていくことこそが本質であり、基礎にして最終奥義ではないのかと思うわけです。

セゾンのお月玉

  他のCXの事例でいうと、私たちが最初に作ったサービス「セゾンのお月玉」があります。
セゾンカードで決済するとデジタル抽選券がスマホに貯まっていって、翌月15日に抽選があって、スマホにガチャが出てきて「ガラガラガラ、パッカーン、当選!」となると現金1万円が毎月1万人に届くというサービスです。この場合も、例えばDXとかキャッシュレスとか、効率だけで考えるならば、本当は当選した方のカードの引き落としから1万円差し引けばいいわけです。
でもカスタマーエクスペリエンスで考えたら、スタイリッシュな現金書留で現金が届いたほうが面白いし、嬉しいですよね。
もちろん効率は悪いし、送料、郵税もかかります。
だけど、そのほうがカスタマーエクスペリエンスとしていいじゃないか、ということでわざわざ現金で送ることにしたのです。

デジタルで当選が見えるけれども、届くのはあくまでもアナログの現金であるというような、デジタルのチームの僕らがアナログな、ある種の現金書留のイノベーションを起こすということだったわけです。

SNSの反応を見てみても、現金1万円が当たったとみんながインスタにあげたり、Twitterにあげたりしてくれるわけです。
これもやっぱり、デジタルだけを掲げるのだったら、「いや、もうキャッシュレスの時代に何現金配ってるんですか、そんなのありえないです
よ」となるかもしれませんが、カスタマーエクスペリエンスを高めていくことになると考えたら、現金をそこに織り交ぜていく、織り込んでいくことで面白さにつながります。

そこで、アナログとデジタルの融合的なサービスを作ったんです。
これは、デジタルに寄せることが大事ではなくて、カスタマーエクスペリエンスが大事だよという観点で、そういうバランスの取り方にしたサービスなわけです。

SAISON CARD Digital

  他にも、「セゾンカードデジタル」という日本で初めての完全ナンバーレスなカードを作りました。
最短5分でスマホが財布になるカードですが、このときにもカスタマーエクスペリエンスとして大事にしたのは、カードの薄さです。 エンボスの番号がないと、財布に厚みが出ないからです。
これがとても大事で、こういったある種のアナログなカスタマーエクスペリエンスにこだわりながら、新しい商品を作っていく。
このアプリは、全て僕らが内製で開発しました。
こういうことがカスタマーエクスペリエンスだし、こういうことを意識しながらやっていくことが本当に誰かの役に立つDXではないかと思うわけです。

CX、DX、EX

DXはややもすると先端技術の利活用や、データを集めたら何か見つかるかもしれないという形になってしまいがちですが、大事なのは、誰のどのような喜びに寄与するのか、ここが全てではないかということです。

そこをきちんと説明できないのものは、ほとんど技術の濫用なんじゃないかと思うわけです。

破壊的創造から協調的創造へ
~ベンチャーの分化と大企業の文化の融合、新旧の文化の融合~

ここから後半の話になります。
CX、EXが大事だということが分かっても、守らなければいけないものもあるとか、今までの事業やお客様、または取引先がある中で、どうやって今までのものと新しいものを融合させていくのかというのは、ほとんどの組織の共通の課題だと思います。

ここでよく陥りがちな罠が、破壊的創造です。
今までのものを全てリセットするぐらいの覚悟で!となりがちなんですけど、僕は、それは違うと思っています。

それで成り立つやり方もあるのかもしれませんが、個人的には協調的創造の方がいいのではないかと思っています。
私自身がベンチャーをずっとやってきて、今は大企業でやっていて、この融合というのはできるし、また新しいものと今までのものと融合もできると思っているんです。
その辺の事例や考え方をお話ししたいと思います。

実は2013年にセゾン情報システムズと資本業務提携したあとに、1年くらいこれをずっと言われ続けてきたんです。

「業界の中で賭けが始まっているよ」と。

小野さんが半年で辞めるか、1年で辞めるか、3年で辞めるか、と。
あれ、3年以上はないわけ?みたいな。
そういうジョークが言われるくらい、周りの人は「小野さんは大企業に合わない」と思っていたようです。

確かにアジャイルという言葉ができるずっと前から、アジャイル的にどんどん柔軟にやって来た僕、エンジニアの世界の僕を見ると、ウォーターフォール中心で、メインフレームがあっての会社とは合わないと、みんなが思っていたようです。

確かに最初の半年くらいは、「すぐにやればいいのに」というもどかしいときもありました。ところが、実はそういうやり方の合理性、そのやり方だからこその強みがあることに気づいて、そこから考え方が変わりました。

ある時ガートナーの方がインタビューに来て、今のような話をしたんです。
そうすると、「小野さん、比較的早く気づきましたね」と。
「それはこれからガートナーが提唱しようとしているバイモーダルです」と言うんです。
せっかくガートナーさんが提唱している言葉があるので、独自に言うのではなくて、僕もその言葉に乗らせてもらおうと思いまして、ここから「バイモーダル戦略」を掲げるようになりました。

バイモーダルとは

バイモーダルというのは二つの流儀、「モード1」と「モード2」が混在しているさまを表す言葉です。
「モード1」というのは、しっかり守らなければいけない領域に適したモードです。それなりに歴史のある企業では、特にこういった考えが多いと思います。
安定性重視だし、ウォーターフォールだし、ERPみたいな、ミスしたら大変なことになるようなことです。
サプライヤーチェーンマネジメントもそうですが、どこかで抜け漏れがあると困るから、IT部門が集中してコンプライアンスやガバナンスをして、予測可能な業務を事前に設定してやっていく。

こういったやり方はよく武士に例えられます。
鎧を身に纏っているから、事故には遭いにくい。ちょっとした手裏剣が飛んできたりしても大怪我をしない。その代わり、鎧の分動きが遅くなってしまうという長所短所があるわけです。
オペレーターやオペレーションの部門では、特にこのモードが強く求められがちです。
守らなければいけないもの、背負っているものが大きいわけですから、一つ一つの案件でROIや効率を徹底的に見ていきます。
リスクを抑えて安全運転、トップダウン、大規模、統率力、実行力といった、ものですね。

一方「モード2」の方は、どちらかというとベンチャー的な感じです。
アジャイルやマーケティングオートメーション、ユーザ部門が分散管理することこそが望ましい、といった具合です。
これは今現在見えてないような、探索的業務にとても向いています。

革新を起こしていくということで、よく忍者に例えられます。
忍者は鎧を身に纏っていないから早いし、方向性もすぐに変えられますが、手裏剣が飛んできたら怪我するかもしれない。身軽な一方で、こういう危うさもあるわけです。
ROIを1個1個細かく見るよりも、大きな成功をしたときに場外ホームランで月まで飛んでいくような、大成功するかどうかを重視していく考え方で、小規模な組織で特に機能しますし、機動力、柔軟性もあります。

バイモーダルな組織

モード1、モード2の両方が大事だよねと言うと、ほとんどの人が納得してくれます。
但し何が難しいかというと、この2つが共存すると喧嘩するわけです。
あるあるの話で、みなさんが想像にかたくない、見たことがある風景としては、モード1の人はモード2の人のことをこう言います。
「なんですか、あの人たちは、いつもslackしているかFacebookでいいねしてるか、茶髪で短パンでサンダルだし」「遊んでいるようにしか見えない」と。

一方でモード2の人に、モード1の人のことを言わせるとこうなります。
「なんですか、あの人たちは。いつもスーツで固くて、上が言ったことは絶対で、個人の意見とかないんですか。slackでもいつもしゃべってないし」。

僕が一番衝撃だったのは、モード2の発言で「小野さん、知ってますか?あの人たちは恐竜の化石の中でも、とりわけ動きが遅い部類ですから」。
「そもそも恐竜の化石、動かなくね?」と。
このように常識が違うので、特徴が短所に見えてしまうわけです。
共存すれば本当はとても強いのに、喧嘩してしまうのをどうマネージしていくのかということが極めて重要な課題になってきます。

このバイモーダル、調整する人にも「ガーディアン」という名前がついています。
調整役だということで、この調整ができないと二重人格的な要素を受け止められなくて失敗するということを、ガートナーが言っているわけです。

自転車(Bicycle)とバイモーダル(Bimodal)の類似性

  ある種自転車と似ていて、後輪は自分で方向転換しないけど馬力がある。
前輪は方向転換をしますが、片方だけだと一輪車になってしまう。
やはり両方あることに意味があるわけです。
バイモーダルも自転車も、その両方が存在することで安定するし、向きを変えながらも馬力も必要だということです。

HULFTはバイモーダル戦略で世界へ

HULFT自体がバイモーダル戦略でもともとの守りの部分、事故がなくて安全安心、確実なHULFTがいいというモード1的な価値でこれまで受け入れられてきました。
そこをきちんと守りながら、クラウドでも求められるHULFTということで、守りながら攻めるということを、HULFT自身もプロダクトとしてずっとやってきたのです。

2013年当時、HULFTにとっては将来に向けてクラウドやIoTのデジタル領域に対応していくことが重要な課題でした。裏返して言えば、そこでも求められるHULFTになっていけばいい。
つまり、自分たちを殺しにきている領域で勝ちにいけばいい。そこのバリューがきちんと証明できればいいわけで、クラウドでHULFTを使うのはベストプラクティスなんだと言われる状態に持っていけばいいわけです。
HULFTはこのように、バイモーダル戦略で勝ってきたプロダクトなんです。

AWS re:Invent 2015

毎年ラスベガスでやっているクラウドのイベント、AWSのre:Invent 2015でHULFTが「Think Big award」に輝きました。
この年は世界で9社しか獲らなかった賞を、バイモーダル戦略で、クラウド時代のHULFTということを打ち出して受賞しました。
ここからAWSでHULFT、DateSpiderの需要が出てくるというような流れを作っていきました。
まさにバイモーダル戦略で、ある種トレンドを変えていったと言える事例だと思います。

HRTの原則

このHULFTの事例でも、今までのものを否定してしまったら絶対できなかったことだと思います。
Googleが実践していて、Team Geekという本にもなっている「HRT(ハート)の原則」、これこそがバイモーダルの実現に向けて一番肝になりますので、ぜひこの言葉を覚えていただきたいと思います。

HがHumility、謙虚さ。
RがRespect、敬意を払うこと。
TがTrust、信頼すること。

このHRTの原則がステークホルダーの中で守られているプロジェクトであればあるほど、成功確率が高くなります。
Googleは心理的安全性や、プロジェクトの成功に関するチームコミュニケーションの様々な研究を、時間もお金もかけてやってきた会社です。
そのGoogleが行き着いたのが和の文化に近いような、謙虚、尊敬、信頼という、日本の社長室の掛け軸で飾ってあってもおかしくない内容です。

逆に言うと、日本人はこれを本当はやりやすいはずなんです。和の文化ととても近いので。
このようなことをやっていくのが、実はデジタル時代の一番の勘所だったということではないかと僕は思っています。

まさに守りつつ、攻めるときには今までのものを否定したりせずに、敬意を払う。そしてこれからのものにも敬意を払っていくことこそが、現実解なのではないかと思っています。

破壊的創造から協調的創造へ

「破壊的創造」というのは、今までのものを否定しています。だって壊すと宣言しているのですから。

そうではなくて、今までのものの価値を認めて、それをこれからのものにどう適応させていくのかというバイモーダル戦略でやっていく。 そのときに肝になるのが、HRTの原則であると思います。
異なる文化に対して敬意を払い、異種混在を是として、HRTの原則を徹底して守るということこそが重要です。
巨大なイノベーションのようなものに過大な期待を寄せて、そのためには破壊が必須であるようにする必要はないし、それは遠回りだと僕は思っています。

テクノロジーセンターの行動指針

僕らのチームはバイモーダルなチームですが、具体的な行動指針として、これを成り立たせるために4つ原則を設けています。

1番目は「さん」付け。
例えば、「小野専務」と言ってはいけない、とか。
みんなお互い「くん」も言っちゃいけない、みんな「さん」で呼ぼうと。

2番目が先ほどの「HRTの原則」を100%守り切る。
価値観の対立があると、頭にくることは僕も含めて正直あります。
だけど絶対に怒ったらいけない。言うべきことは言うけどマイルドに言う。

3番目は、短所について言及し始めてしまうとキリがないし、対立してしまうので、短所については言うのを禁止、と。
長所を見て、その長所がお互いの短所を補えばいいじゃない、と。
苦しくても辛くても全力で短所を受け止めるんだ、と。

4番目は、成果が出ないといけないので、世の中を良くするとか企業を成長させるとか、成果を出すチームであることを最重視しようね、と。 この4つを行動指針として掲げて日々仕事をしています。

今お話ししたことも含めて、2020年の7月末に「その仕事、全部やめてみよう」という本が出ました。
1ヶ月くらいAmazon Kindleの写真集や漫画とか全て含めて全ジャンル1位ということで、色々な方に評価いただきました。
ご興味ある方がいましたら、ぜひ手に取って頂ければと思います。

私のプレゼンは以上になります。 どうもありがとうございました。

システム運用に携わるすべての
企業・ユーザーのためのイベント

EVENT REPORT

Online Event

松原 実穂子 氏

コロナ時代のサイバー攻撃と
内部犯行の実態

NTT
チーフ・サイバーセキュリティ・ストラテジスト
松原 実穂子 氏

小野 和俊 氏

DXはCXとEXのために

株式会社クレディセゾン
専務執行役員 CTO(兼)CIO 小野 和俊 氏

稲本 浩久 氏

アナログな業界に
おける最先端技術の活用法

株式会社GA technologies
執行役員 CAIO 稲本 浩久 氏

三角 正樹

二極化しつつあるシステム運用。
DXにより勝者と敗者の明暗が
分かれるか?

株式会社フィックスポイント
代表取締役 三角 正樹

田辺 雄史 氏

コロナ後におけるDXの推進と
デジタル産業創設への布石
~経済産業省におけるDX政策展開~

経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課 課長
ソフトウェア・情報サービス戦略室長 田辺 雄史 氏

佐藤 壮一 氏

Microsoft Azure の Ops の現在地点と
Microsoft の提唱する Ops の今後

日本マイクロソフト株式会社 Azure ビジネス本部
プロダクトマーケティング部 プロダクトマネージャー
佐藤 壮一 氏

佐々木 孝之 氏

自走型RPAによる生産性向上と
デジタル人材の育成

田辺三菱製薬プロビジョン株式会社
ワークイノベーション部
デジタル推進グループ グループマネジャー
佐々木 孝之 氏

松田 和重 氏

信頼のおける「人と技術」が融合した
MSPサービスの運用方法

興安計装株式会社
取締役 事業本部長 松田 和重 氏

元山 文菜 氏

過去の成功体験が足かせになる。
DXを失敗に陥れる業務のありかた

株式会社リビカル代表取締役
業務コンサルタント 元山 文菜 氏

野々峠 裕文 氏<

目標 無人オペレーション
~システム運用の全自動化の挑戦~

株式会社オージス総研
プラットフォームサービス本部
クラウド基盤ソリューション部 部長
野々峠 裕文 氏

志村 毅 氏

NoOpsから
AIOpsへの進化の道程

セイコーソリューションズ株式会社
戦略ビジネス第2本部 デザイン営業部
担当課長 志村 毅 氏